人間のエコフットプリント*1の中の最大の要素が「食」である。今日、大半の食料は、長距離の輸送を経て食卓に届いている。生鮮食品の輸送については航空機の利用が増えている。国内産の食品もスーパーマーケットに届く前の加工と包装には莫大なエネルギー消費が必要であり、更にそれ以前の農薬や肥料の製造・使用にもエネルギーが消費される。特に無駄なのが包装である。
フードマイル … 食料輸送距離
生産地から食卓に至る食品の輸送は、食料生産供給活動による環境負荷の大きな要素となっている。The Women’s Environmental Network (WEN/環境を考える女性のネットワーク)は、英国の二酸化炭素排出量の四分の一が食品の輸送によるものであると算出した。英国で消費される果物の95パーセント、野菜の半分は輸入品である。消費者が小売店まで買い物に行く為の自動車の平均走行距離も毎年延びている。
ある研究によると、近隣の店舗で地元産の林檎を買う場合、その林檎は38マイル(61キロ)の距離を運ばれているとの事である。それが、英国内で生産されて大型商業施設で販売される林檎は223マイル(358キロ)、ニュージーランド産に至っては11326マイル(182227キロ)である。
加工と包装
WENの研究によると、加工食品の製造には、加工しない生の食品の生産に比べて15倍のエネルギーが必要である。高度に加工され包装された食品、例えばコンビニフードは、より複雑にフードマイルを増大させている。原材料や部品があらゆる場所で個々に加工され包装され、最後に食卓で運命の出会いを果たすのである。加工食品の消費とは、同じ食品で加工していない物を自宅で調理するのに比べて、必ず大きなフードマイルを伴うものなのである。
加工食品の包装材は英国の家庭ゴミの約三分の一を占める。WI(Women's Institute/女性研究所)の試算によると、食品の包装には毎年150億ポンド(3兆円以上)が投じられている。
農薬と肥料
現代の農業は、化学肥料や農薬を必要とするので、自然農法に比べてより多くのエネルギー消費を伴う。そして、生産者や消費者の健康上の不安も伴う。
対策 … 取り組むべき事
可能な限り、近隣の販売店で地元で生産された食品を求める事。そうする事で、輸送に伴う化石燃料の消費が減少する。加工していない生の食品は、栄養に富み、保管や輸送の為の化学薬品の使用がないので健康面でも心配が少ない。Big Barn(www.bigbarn.co.uk)は英国内の地産地消の情報サイトである。
輸入品や季節外れの食品、特に航空輸送が必要な食品は避ける。砂糖エンドウ、グレープ、マンゴーなどの消費は控えるべき。
近隣の生産者による直売会等を利用する。その利用を通じてフードマイルの減少、包装の省略、自然農法の普及定着が期待される。 Country Markets*2では、新鮮な食品を互いの顔が見える距離で入手できるし、対価が直接生産者の手に渡る。現在、英国各地の500箇所以上で、多くは週に一度、開催されている。
宅配共同購入を利用する。この制度は、有機栽培の新鮮な、多くの場合は地元産の、農産物をコンテナに詰めて、消費者宅或いは近隣の拠点に配送するものである。通常、大中小のサイズが用意されている。中身は季節によって変わる。The Soil Association(土壌協会)がこの制度を企画しており、ウェブに専用の解説コーナーが設けられている。
食料の内の一部は自分で栽培する。庭が小さかったり或いは無くても、ハーブや葉菜なら窓際で栽培できる(CATのUrban Gardening解説リールレットにて詳説)。
Local Exchange Trading Scheme (LETS/地域物々交換制度)に参加する。これは現金を使わずに、品物や役務を交換する制度である。これにより、地域経済の活性化や、住民を地域の資産として組み込んだ地域社会に基礎を置いたビジネスの発展などが期待できる。LetsLinkのウェブサイトで各地の実施グループの一覧が公開されている。
Community Supported Agriculture(CSA/共同契約栽培)に参加する。これは、消費者が個別の農家或いは農家の団体契約し、作物の対価を予め支払う制度である。農家は年間の生産計画を示し、消費者がこれに出資し、作物が売れた利益を共有する。これによって、消費者は直売所を利用するだけよりも更に一歩、生産者と密接に関わる事になる。農家にとっては計画が容易になり、売上の保証も得られる。この制度は日本で始まり、アメリカで発展した。英国ではまだ始まったばかりだが、発展が期待されている。詳細はThe Soil Associationのウェブサイトで解説されている。
食料品を買いに行く時は、必ず徒歩、自転車、公共交通機関を利用する事。
WENの「サステナブルな食物」と言う研究報告書では、フードマイルを減少させる為に消費者ができる事を解説している。食品別の輸送行程と二酸化炭素排出量を比較し、また、「オーガニック、フェアトレード、地産地消、旬の物のどれが良いのか」と言う難問に回答を与えている。以下にて公開されている。
www.wen.org.uk/local_food/reports/foodmiles.pdf
新鮮な食品
より新鮮な食材を選び、食事は生の素材から料理して楽しむべきである。店頭で過剰包装の食品を手に取ってしまったなら、レジで精算する前に再考すべきである。コンビニフード、調理済食品、高度に加工された食品、過剰包装の食品は避けるべきである。
無農薬食品
可能な限り地元産の無農薬食品を求める。化学肥料・農薬は水源を汚染し土壌を傷めるが、これらを決して使わないのが無農薬農耕である。無農薬農耕に取り組む農家では、輪作、自然堆肥によって地味を養う。そうして作物の生育を通じて自然に土壌に窒素を供給する。牧畜に於ても同じで、意識の高い牧場では、薬品、抗生物質、駆虫剤の多用・常用はしない。無農薬農法は土壌、自然の営み、生き物の健康にとって優れたものなのである。また、地元で生産された作物は、スーパーマーケットに並ぶ品物よりも安い場合が多い。The Soil Associationの無農薬農業要覧では、英国の宅配共同購入制度について解説している。
食肉
肉を食べるのはなるべく控えるべきである。食肉生産の増大は土地や水資源に負担を与えるもので、サステナブルとは言えない。家畜の飼育は、同量の野菜の栽培に比べてより多くの水資源の消費を必要とし、飼育の用地のみならず牧草を育てる場所も必要であり、森林破壊を招く。ブラジルでは1200万エーカー(480万ヘクタール)の森林が切り崩されて大豆畑となり、その大豆はヨーロッパで飼料として使われる。牛の飼育に伴って発生するメタンも異常気象の原因となる。
食肉を購入する場合にもオーガニックな物を選ぶべきである。しかし、地元で生産された自然肥育の畜産品であっても、輸入飼料を食べているわけで、食肉の消費そのものがフードマイルを押し上げている事に変わりはない。
フェアトレード
例えばコーヒーや紅茶など、地元産品では賄い得ない物もある。その場合には、地元地域を含む地方産、国内産と言う順で選択肢を広げ、いずれも不可能な場合には、公正な取引、即ちフェアトレードによって輸入されたオーガニック製品を求めるべきである。フェアトレードマーク(The Fairtrade mark)は、その製品が適正な労働条件の下で生産され、公正な価格で取引された物である事を保証するものである。
参考情報
CATでは、無農薬ガーデニングに関する幾つかの書籍と解説リーフレットを刊行している。詳細はwww.cat.org.uk/catpubsにて案内している。解説リーフレットはウェブサイトwww.cat.org.uk/catpubs/ppv.tmplにてペイパービューも行っている。
相談先
Soil Association 土壌協会(意訳:農業改善協会)
Tel: 0117 314 5000; www.soilassociation.org
無農薬栽培の総合情報、宅配共同購入の詳細。
Local Food Works 土壌協会地産地消推進活動
www.localfoodworks.org
小売店、飲食店、学校、病院、矯正施設、宿泊施設、地域公共施設などに向けた無農薬地産地消の支援。
Link Organic リンクオーガニック
www.linksorganic.com
無農薬栽培・食品の関係業者リスト。
National Association of Farmers' Markets 全国農業生産者直売協会
Tel: 0845 45 88 420; www.farmersmarkets.net
Country Markets Ltd カントリーマーケット株式会社
Tel: 0845 108 3784; www.country-markets.co.uk
Local Exchange Trading Systems (Letslink UK) 地域物々交換制度
Tel: 0207 607 7852; www.letslinkuk.org
The Fairtrade Foundation フェアトレード財団
Tel: 020 7405 5942; www.fairtrade.org.uk
Women’s Environmental Network (WEN) 環境を考える女性のネットワーク
Tel: 020 7481 9004; www.wen.org.uk/localfood
Slow Food スローフード協会
Tel: 0800 917 1232; www.slowfood.com
世界48箇国で地元産スローフードの普及を推進。英国内の関連団体や催事の案内。
WWF - One Planet Living 世界自然保護基金
www.wwf.org.uk/oneplanetliving
WWFによるエコフットプリント研究の紹介。食が英国全体のエコフットプリントの最大要因である事を解説。
訳注:
- 人の生活が環境に与える負荷の総量を土地の広さに換算して示す指標。
- 生産者直販の為の英国の互助組織、またその店舗。
文書全体に関する注意:
- この文書は英国の事情に基づいて記されている。関係団体等の連絡先も英国のものである。
- 団体名や固有名詞の日本語訳は試みに付したものであり、各団体や関係者の確認は経ていない。
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